肝臓病と漢方薬


    
肝臓病は例外的に西洋医学中心の病院でも漢方薬を使う事の多い疾患です。それだけ肝臓病に対して漢方薬の有用性は高いといえますし、西洋医学的な見地からの研究も進んでいます。
【肝臓病について】
 肝臓病は肝臓に病変を起こす病気の総称ですから、細かく分類するといろいろな病気が含まれます。ここでは特に疾患数の多い、「急性肝炎」「肝機能値異常」「慢性肝炎」「ウイルス性肝炎」「アルコール性肝炎」「薬物性肝炎」「肝硬変」「脂肪肝」などを中心に解説していきます。しかし漢方では病名によって処方の選択を行なうものではないので、他の肝臓病(肝癌など)も概ね同じ病気として漢方を使う事が可能です。

 先に挙げた肝臓病では、(脂肪肝を除くと)肝臓の機能や組織が何らかの原因により壊されていく、というのが病気の本体です。その原因は、薬物やアルコールなどの化学物質か、肝炎ウイルスによるものに大別されます。(まれに自己免疫性のものもあります)急性肝炎のように一過性の性格の強いものもありますが、多くは数年から数十年と慢性化していく推移を示します。適切な処置を取らないと、肝機能値異常から慢性肝炎、肝硬変へと進行してしまうこともあり得ます。

 肝臓は再生能力が非常に高く強い臓器ですので、初期段階ではほとんど無症状です。大半が健康診断などで肝機能の異常から先に見つかるケースが多いものです。病気が進行するにつれて症状が現われてきます。
 肝炎はその種類に関わらず症状は大体共通しています。初期ではほとんど無症状で、検査値の異常から発見される場合が多いものですが、病気が進行すると疲れやすい・だるい・食欲不振・はきけ・お腹がはる・みぞおちが重苦しい又はときどき痛む・酒が弱くなる・性欲がおちる・女性の場合は月経異常がおこる、などの症状が表れます。また顔色が悪い・肌の色が黒ずむ、尿の色が濃い、などの変化もよく見られます。重症になれば黄疸や腹水、下血や吐血等もしばしば見られますが、こうなると肝硬変に進行している事も多く、十分な治療が必要です。
 肝硬変は肝臓病の末期の状態で、肝臓の組織の多くが壊され肝機能が著しく低下しており、高確率で肝癌に進行する可能性があり重篤な疾患です。肝硬変まで進行すると病気を完治することはほとんど不可能になりますので、病気の進行を止め残された肝機能をできるだけ維持する事が治療の重点になります。

 脂肪肝は他の肝臓病とちがい、ほとんど症状はでない事が多いものです。原因の多くはアルコールや肥満などですが、不規則な生活や栄養バランスの悪い食事、ストレスから起こる場合もあります。検査で GOT等の肝機能異常がでることもあるので慢性肝炎と誤診される事もありますが、多くは肝機能値にも異常が出ない事もあり見落とされがちです。病気としての危険度は他の肝臓病に較べれば低く、すぐに命にかかわるような事は無いといえます。しかし最近の研究では、時にいきなり肝硬変や肝炎に進行する症例も存在する事がわかってきました。どちらにせよ健康を計るバロメーターとして考えれば、脂肪肝は放っておいて良いというものではありません。原因の改善や何らかの治療が必要でしょう。

 ウイルス性肝炎では、原因になるウイルスにより、A型、B型、C型、その他に別れます。このABCというのはウイルスの発見命名順にアルファベットをあてたもので、D型以下も存在しますが患者数が比較的少ないのであまり話題になりません。通常はA型、B型、C型の3種が問題になります。
 このうちA型は急性肝炎の原因として知られ、なまものなどを食べることで経口感染します。A型の急性肝炎は初期症状は激しいですがほとんど慢性化しないので、罹患期間は短いものです。最初の急性期さえ抑えられれば予後は良好な症例が大部分で、大半は完治していきます。
 一方B型、C型は多くは血液から感染を起こし、慢性肝炎と肝硬変の主な原因になります。A型と違いなかなか完治せずに長期に推移するものが多いタイプです。またB型、C型ウイルスには、無症状でウイルスを保有しているキャリアという状態の人も多く、将来本人が肝炎を起こす可能性があるだけでなく、自覚しないで感染源になる事もありました。特にC型は最近までウイルスが発見できず、輸血などで多くの感染者を出してしまった歴史があります。ただ、すべてのキャリアの方が慢性肝炎や肝硬変になるわけではなく、自然治癒したり適切な治療で完治していくこともありますし、ウイルスの活動がゆっくりで一生の間発症せず、天寿をまっとうできるケースもあります。最近ではインターフェロンと抗ウイルス薬の併用などの新しい治療法が用いられ、治療成績が改善されてきました。
  
 薬物性肝炎やアルコール性肝炎では、原因となる物質の摂取を中止する事が重要です。
薬物性肝炎では一部の例を除き原因となる薬の服用を中止することで肝炎も自然におさまり、予後も良好なものが多く大部分慢性化しません。しかし病気によっては原因となる薬の服用をすぐに特定できなかったり中止できない場合もあります。このような例では使う薬の種類を変えたり、使い方を工夫して対処せざるえないケースもあり、治療が難しくなります。
同様にアルコール性肝炎も、お酒を止められなければずるずると悪化し慢性化してしまいます。お酒好きの方で肝機能検査に異常が出た場合は、できれば禁酒の覚悟が必要です。

【肝臓病に対する東洋医学的な考えと対処法】
 肝臓病に対する漢方薬は大変有効なものが多く、西洋医学的治療にも勝るケースがある漢方の得意とする疾患です。体質に合った漢方薬を使えば、安心して長期服用でき、肝臓病を治癒または良好にコントロールできます。西洋薬との併用も頻繁に行われ、とても良い結果が報告されています。服用経験のない方には、漢方薬療法は是非おすすめしたい治療法です。
   
 漢方薬は肝臓病の原因や種類で使い分けるのでなく、症状や体質を重視し処方を選びます。肝臓病に使う漢方薬はたくさんの種類がありますが、肝臓病の初期から中期にかけては柴胡剤(さいこざい)という分類の漢方薬の一群がとても有効です。これは柴胡という薬草を主役に組まれた漢方薬の一群で、現代医学でも肝臓病に高い効果が認められています。体力がある方には大柴胡湯(だいさいことう)、中程度の体力のある方には小柴胡湯(しょうさいことう)や柴胡桂枝湯(さいこけいしとう)、体力がない方や高齢者では補中益気湯(ほちゅうえっきとう)などと使い分けます。また、黄疸やむくみなどがあれば別に茵陳五苓散(いんちんごれいさん)や茵陳高湯(いんちんこうとう)などの処方も使われます。
 
肝炎の末期や肝硬変では、すでに体力が損なわれている例が大半ですので、体力も補う目的を加味した柴芍六君子湯(さいしゃくりっくんしとう)や十全大補湯(じゅうぜんだいほとう)などを使う事が多くなります。以上の処方は肝臓病用漢方のごく一部なので、実際に服用を試したい方は漢方専門の病院か薬局に必ず相談して下さい。
 尚、肝臓病では小柴胡湯を中心に漢方薬の副作用の問題が話題になったのは記憶に新しいことです。この為、漢方薬も危険が高い、という認識が一部に広まりましたが、これは正確ではありません。この問題については、こちらに詳しく記載があるので興味のある方は参照下さい。

 漢方薬以外の民間薬や健康食品にも、肝臓病に良いものが多くあります。うこんは香辛料としても使いますが、肝臓の治療補助としてもすぐれています。田七人参(でんしちにんじん)も肝臓病にはとても良い事が多く、又体力も補えるので体質にあまり関係なくおすすめできます。どちらも安全性が高く比較的安価なものなので、気軽に試してみると良いと思います。その他の健康食品にも使えるものは多いので、これも専門の知識のある薬局などに問い合わせてみることをおすすめします。
  

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