| 漢方薬の剤形の種類(煎じ薬と錠剤、顆粒剤、エキス剤について) |
漢方薬には、現在大きく別けて三種類の剤形(薬の形状)が使われています。昔ながらの煎じ薬と、顆粒剤(粉薬)、錠剤の三種です。ここまでは皆さんもご存じでしょうが、現代の漢方薬ではもうひとつの分類として、エキス剤か自然素材かという分類が重要な意味を持っています。まずこの事から解説します。
エキス剤というのは、自然の生薬を原料にこれをフリーズドライのような手法で成分を抽出したものです。工場で煎じ薬を作り、これを濃縮乾燥させるわけです。インスタントコーヒーをイメージしてもらうと良いと思います。煎じ薬は豆からいれたコーヒー、エキス剤はインスタントのコーヒーに例えられます。このエキスを原料に、顆粒剤や錠剤を作ることが多くなっています。
ちょっと面倒な話ですが、例えば市販の漢方の粉薬の場合
1. エキス剤100%から作られたもの(漢方薬の顆粒剤と既製品は大部分この分類)
2. 生薬そのものを粉にした自然素材100%のもの(今は少なくなってきた)
3. エキスと自然素材の粉を混ぜて製品化したもの(これも割合はやや少ない)
以上の三種類の製品が流通しています。
錠剤でも同様の状況です。エキス剤から作られるものが多くを占めるようになってきています。今漢方薬は、エキス剤ぬきには語れない時代になっているのです。
なぜエキス剤がこれ程普及しているのか、その理由をあげてみましょう。
まず第一に、エキス剤は成分だけをとりだし濃縮できるため、服用量を少なくできてしかも顆粒や錠剤に加工しやすく飲み易いものが作れます。生薬そのもので粉や錠剤(丸剤)を作る昔ながらの製法だと飲む量が多くて味やにおいもあり飲みにくくなりがちですし保存にも気を使います。
第二に、品質的に均一な成分の薬を大量に作れます。生薬は大半が一種の農作物のようなものなので、産地や収穫時期によって薬効にばらつきがあります。良いものを選ぶにはそれなりの選球眼がいりますが、エキス剤ならその必要がありません。また均一な品質なので病院などの医療の場では比較臨床試験のような治験もしやすく、効果の再現性がえやすいのも良い点です。したがって現在病院で処方される漢方の顆粒剤はほとんどエキス剤です。
第三に、今まで煎じ薬でしか利用できなかった処方も、顆粒や錠剤にできるという利点もあります。漢方薬は、“安中散”“八味地黄丸”のように、名前の最後に散や丸の字が付く処方はそれぞれ散剤や丸剤に加工できますが、“葛根湯”“小柴胡湯”のような名前の最後が湯の字で終わる処方は本来煎じ薬での利用が前提で、粉などに加工しにくかったのです。そしてこの煎じ薬専用の処方が、種類としては圧倒的に数が多いのですが、これらがエキス剤の登場により手軽に顆粒や錠剤で利用できるようになりました。以上の点が大きなメリットです。当然漢方専門薬局や病院でもエキス剤は必ず使っていますし、ふくろう堂薬局でも使っています。
では問題点はなんでしょう?大きく次の二点をあげておきます。
一つ目は、煎じ薬とそれから作られるエキス剤は、まったく同じものとは言い難いという事です。これは漢方業界では以前から議論の多い問題ですが、私は無視できないと思っています。漢方薬の煎じ薬は、使ったことのある方には分かりやすいと思いますが、とてもにおいが強いものが多いです。これは、揮発性の高い成分が多く含まれるということなのですが、こういう成分はエキス剤に加工して乾燥すると、かなり失われてしまいます。その結果、漢方薬の効果や性格が少し変わってしまう場合があります。単純にエキス剤の方が効果が落ちるだけならまだ良いのですが、事はそう簡単ではありません。エキス剤に加工してもほとんど失われない成分もあり、一つの処方に含まれる多種類の成分の配合割合が煎じ薬と大幅に変わってしまう場合があるのです。漢方薬の生薬の構成は、直接の薬効を期待して入れる生薬とともに、強すぎる薬効を緩和する調整目的の生薬や、毒性のある薬草の副作用防止目的の生薬なども考えて入れられています。したがって成分のバランスが変わってしまうと、たとえば虚弱な体質の人向きの処方が少々強すぎる性格のものになったり、副作用が出やすいものになる事もありえます。昨今世間で話題になる漢方の副作用の問題は、このへんにも原因の一端があると思います。(副作用報告の全例がエキス剤です。それ以前に処方の選択をまちがっている例も多いのですが。)
また、濃縮できて飲みやすく服用量も少なくてすむという事は、安易に2〜3処方いっぺんに出したり、処方量を過量に出したりしやすく(病院でも薬局でも、たくさん薬を出した方が利益になりますから)さらに良くありません。煎じ薬の場合、飲みにくいという事は、何処方も一度に服用しにくいし、かつ体質に合わなければ悪心や下痢などの拒絶反応も出やすい為、かえって重い副作用は防ぎやすいといえるのです。もう一つの問題点は、これほど普及しているエキス剤ですが、作っている処方の種類があまりに貧弱な品揃えしかないということです。漢方のエキス剤の最大メーカーのツムラなどでも、医療用の漢方エキス剤は150処方前後しか製造していません。市販の薬局用の漢方薬はさらに種類が貧弱です。実際の漢方薬の処方の数は、当然遥かに多く豊かなものです。これは漢方薬にあまり関心のない医療行政が処方を増やすのに消極的なのと、使う側の医師・薬剤師も西洋薬中心で漢方薬を知らない為、多種類あっても使いこなせないことの両面に由来します。(実際一般の病院で在庫している漢方薬の種類は50処方あればいい方でしょう。)これでは漢方薬を主に治療をしていくには選択肢が少なすぎるので、漢方専門家は煎じ薬を自分で作り使っているのです。
それでも処方する側が漢方の知識に明るければ、2処方を組み合わせて併用してもらうなどある程度応用ができるのですが、なかなかキチンと使いこなしている所は多くはないと思われます。処方の併用にはそれなりのルールというか相性があり、かえって効果が落ちてしまう場合もあります。エキス剤メリットを活かして使うのは服用する患者さんにも益があり悪いことではないのですが……。
皆さんも漢方薬を服用する時は、こんなことも頭に入れて選択の参考にして下さい。市販の漢方薬には包装のどこかにエキス剤か否かが表示されています。病院で処方される銀のパッケージに入った漢方顆粒はほとんどエキス剤です。私の経験からいうと、同じ処方なら煎じ薬が効き目が一番良く、粉や錠剤では生薬の自然素材100%のものかエキス剤と自然素材の混合品の方が、エキス剤だけのものより効き目が良いと思います。ただ先に書いたように、エキス剤のみの選択しかないものが大半ですが。お問い合わせはこちらからも可能です。kanpou@hukuroudou.jp
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