- 【1】まず漢方薬の現状から
- 漢方薬は基本的に医薬品ですから、薬事法上医療関係機関(病院や診療所など)か薬局薬店でしか手に入りません。それ以外のところでも漢方ナニガシ、というような漢方の名をかぶせたものも目にしますが、大抵は漢方薬とは別物で宣伝のコピー以上の意味はありません。(鍼灸院などは東洋医学の正統な伝承医学なので、漢方理論に精通する方も多いのですが、残念ながら医薬品の販売はできません) その為漢方薬を手に入れるには通常医師から処方してもらうか、薬局薬店から購入するかの二通りになります。(個人輸入等で海外から手に入れるという例外もありますが)
ところで漢方医学は認知されてきたとは言え、日本の西洋医学中心の医療業界では今も異端と言って良い立場にあります。医師、薬剤師共に、大半の大学では漢方を教わるということはほとんど無いに等しく、本格的に学ぶ者は卒業後に自分の意志で、という形になります。従って医師・薬剤師で、実際に漢方を理論から学んだという人は、全体から見て一割に遥かに満たない数と思います。漢方理論の知識をキチンと持った医師・薬剤師は本当に少ないのです。一方で漢方薬を飲んでみたいという患者さんは多くいるので、病院や薬局では求めに応じ漢方薬を全く置いていない所は殆ど無く、日常的に漢方を使用することが常になっています。この需要と供給のギャップをうめる為、一般の医師・薬剤師が漢方薬をその理論はぬきにして、西洋薬と同列に扱い漢方薬に一応の効能効果をつけてそれを目安に処方しているというのが現状です。
- 【2】それで何が問題か?
- 漢方薬は本来その患者さんの体質と症状を判断して処方を決める(弁証・論治と云います)のが正しい選び方です。病名や症状を効能に照らして処方を決める、というのとは似て非なるものです。(しかも効能の付け方に問題があります。次の【3】参照)しかしとりあえず理論は置いておいて、効能で処方を決めるという方法でも、漢方薬はそれなりに効き目がある場合も多いので、それで良しとしているのです。単純な症例や軽い病気ならこれでも一応効果が出るし、薬としての利用価値も高いので問題はあまりおきないでしょう。でもこじれた病気や難しい症例、効能書きに当てはまらない症例ではどうでしょう?
漢方薬局での経験から言えるのですが、漢方薬を服用したい患者さんは一筋縄ではいかない症例の人がとても多いのです。これはちょっと考えれば理解いただけると思います。今の時代普通の人が病気になれば、まず病院で西洋医学の治療を受けます。普通の方はこの段階で大半は治っていきます。そしてそこで思うような結果が得られない方が、はじめて漢方薬の治療を希望するようになるのです。当然ちょっと難しいこじれた症例が大部分をしめます。
このような患者さんに対して、漢方理論を抜きで効果的な処方を選ぶのは、ハッキリ言って無理があります。患者さんも漢方薬を服用しても思うような薬効が出ずに、失望してしまうのではないかと思います。そればかりか副作用の発現の可能性も高まります。でも大部分の病院や薬局では、こんな状態での漢方療法が行われているのです。
- 【3】効能書の問題
- 漢方薬は医薬品として国で認定されている為、西洋薬と同じく必ず効能・効果が付けられています。これは西洋薬のような単一の成分からなる薬では、効能をつけやすいので問題が少ないのですが、多くの成分や生薬を含む漢方薬では実はとても難しいのです。元々漢方薬は本来患者さんの体質と症状(証といいます)をみて処方を選ぶもので、病名から薬を選ぶのではないのです。
例をあげれば、葛根湯(かっこんとう)はカゼ薬とよくコマーシャルで流されています。実際あるメーカーの葛根湯には、『感冒、鼻かぜ、頭痛、肩こり、筋肉痛、手や肩の痛み』とだけ、効能が列記されています。かぜやその諸症状に葛根湯が有効なのは間違いではないのですが、多分この適応症を見て使ったら、患者さんの半分の方は効き目が薄いか逆に体調が悪くなりかねないと思います。もう少し親切なメーカーだと、効能の頭に『自然発汗がなく頭痛、発熱、悪寒、肩こりを伴う比較的体力のあるものの次の諸症』のような説明が付きます。これは漢方の(証)をなんとか効能に盛り込もうとした努力の表れですが、かえって分かりにくい感じがするかもしれません。漢方理論を知らないと混乱を呼びかねず、多分一般の方も医師・薬剤師でも、ここにあまりこだわらずに漢方を用いている方が多いと思います。
また、もうひとつ問題なのは、医療用の漢方薬で保険適用をするのにどうしても効能に縛られるということです。漢方薬は(証)が合えば、本来病名にとらわれず一つの処方をいろいろな病気に使います。先の葛根湯ならば、かぜ以外にも証が合えば蕁麻疹、中耳炎、四十肩、扁桃炎、皮膚炎、湿疹、結膜炎、大腸炎、リウマチ、副鼻腔炎、喘息などにも効果が期待できる、応用範囲がとても広い処方です。本当は単に“かぜ薬”という認識では収まりきれない多彩な効果のある薬です。
このように漢方では一つの処方に病名をあげればきりが無い程の数の効力があるのです。でも薬に対するこのような考え方は西洋医学には馴染みません。従って漢方理論的にはぴったりな処方をある患者さんに選んだとしても、大多数の病院では効能にあてはまる病名が無いとその処方は医療保険がきかないので使えません。次善の策として効能に合う別の処方にあえて変える、という事態になります。これでは十分な効果は望めません。この問題を解決するのは難しいのですが、例えば北里大学の東洋医学研究所(日本漢方の代表的医療施設の1つです)があえて保険を使わない実費診療をしているのも、この縛りから逃れるという意味があると思います。
結論として漢方薬に効能書きをつけるのはかなり難しいと言えますし、またそれに縛られてしまうのはナンセンスな事なのです。
薬局・薬店で直接漢方を販売する場合は、医療保険の事は気にせず漢方を選べるのでその点有利です。ただし効能書にその人の病名がないものを販売すると、お客さまが納得しないだろうと考えて、効能に縛られた漢方の販売をしてしまいがちです。便利で使いやすくする為の効能書きがこのような悪影響を及ぼしているのは、本末転倒といわざるえません。それに逆らって処方を選ぶには、よほど漢方知識に自信がないと難しい事といえます。
もうひとつエキス剤の問題がありますが、ページをあらためます。
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