便秘と漢方


   
【便秘と下剤】
 便秘は薬局の相談でとても多い疾患の一つです。その理由は、便秘だけで病院にかかる方は割合少ないということと、病院でみてもらっても腸などに特別な病気でも見つからなければ、下剤を処方されるか、浣腸をするだけでお終い、というケースが多いからでしょう。また下剤の種類も少なく、腸を刺激して排便を促すタイプの薬が主で、薬局で手に入るものと大差がないこともあるでしょう。使い続けて便秘そのものを治すものではないが、便秘は病気、という認識も薄いので漫然と下剤を使い続けるだけの方も多いと思います。
 しかし、便秘も放っておけばいろいろな大病の原因になりうるし、それ以前に毎日不愉快な思いをして生活しなくてはならず、また肥満や肌荒れなどのもとにもなり、治した方が良い事に変わりありません。では、下剤を漫然と飲み続けていても大丈夫でしょうか?
便秘薬のタイプ別に考えてみます。
   
1. 一般の西洋薬の下剤は強力ですので、本当は普通以上の体力があり冷え性の傾向などがない人向きです。体力のある方なら、あまり頻繁に使用しなければある程度連用しても、下剤で健康を損なうことは少ないといえます。でも、比較的虚弱な体質の方や高齢者、冷え性の方などは腸に負担がかかるので、連用はさけた方が良いのです。お腹を冷やすので腹痛が強く出たり、連用すると冷え症や生理痛の悪化などを起こす事もありますし、体力を損ねますので疲れやすくなる場合もあります。妊婦も使えない物が大半です。
2. 最近多い食物繊維が主成分の下剤では、問題が起こりにくいですが、腸の動きが悪いタイプの方だと、便の体積が増える為文字どおりフン詰まりを起こしお腹が張ってしまい、かえって苦しい思いをする場合があります。体質の合う方は連用が可能な薬です。
3. 乳酸菌(ビフィズス菌)や酵母などから作られた通じ薬も体に害がなく良い薬です。残念ながら便秘のすべての人に効果があるわけではないですが、このタイプの薬で通じがつくなら虚弱な方でも長く連用でき、おすすめできます。
4. 最後に、ハーブの便秘薬や市販の漢方便秘薬ですが、これらは以外かも知れませんが、西洋薬の一般の下剤と性格的には似て作用の強いものが大部分です。ハーブはセンナである事が多いですし、漢方便秘薬は大黄(ダイオウ)が主成分の処方が大半です。これらの生薬はかなり作用が強力で、宣伝文句のようには体に優しいとはいえません。体力のある方は良いのですが、比較的虚弱な体質の方や高齢者、冷え性の方などは腸に負担がかかり体を冷やすので連用はさけた方が無難です。

 
ただし、本来は漢方薬にはいろいろ体質に合わせた便秘薬があります。便秘は漢方薬を使うメリットがとても高い疾患といえます。専門店に相談すれば虚弱の方向きのものや高齢者、妊婦さんでも飲める漢方薬も取り揃えてあります。又、漢方は処方によっては単に下剤というだけでなく、便秘の体質そのものを改善して、うまく行けば薬に頼らないでも排便できるようにしていける可能性も期待できます。慢性化して悩んでいる方は相談してみると良いでしょう。
   
   
【便秘のタイプ別漢方薬と薬草・民間薬】
 漢方では、便秘を一括りにするのでなく、いくつかのタイプに分け便秘薬を使い分けます。以下に列記してみます。
1. 体力が充実しているタイプで、便は硬く割合暑がりのような方であれば、一般に販売されている漢方便秘薬は大抵使えます。ただ、市販の漢方便秘薬は多くは大黄甘草湯という処方で、これ自体には体質改善の働きはほとんどありません。体質改善を期待するなら、次のようなものが良いでしょう。
《1》のぼせ気味で赤ら顔、ときに口苦・不眠・イライラ・高血圧などの傾向がある方……三黄瀉心湯(さんおうしゃしんとう)など
《2》上のような状態に加え、みぞおちの張り、肩こりなどもある……大柴胡湯(だいさいことう)
《3》肥満があり、暴飲暴食気味、肌も荒れやすい、高血圧・糖尿病・痛風など罹患している事もある……防風通聖散(ぼうふうつうしょうさん)など
《4》下腹部が張る、生理痛が強い、頭痛や肩こりがひどいなど……大黄牡丹皮湯(だいおうぼたんぴとう)、桃核承気湯(とうかくじょうきとう)など
他にもいろいろありますので、詳しくは専門店に相談すると良いでしょう。以上の処方は基本的には妊娠中は服用できません。
民間薬ではセンナ、アロエなどが使えますが薬効がかなり強力なので、通じがつくならどくだみの方が体に優しく連用もききます。
2. 体力があまりなく、体が冷え性気味の方は市販の漢方便秘薬では強すぎます。たまに飲むなら良いですが、連用はすすめられません。このタイプの便秘の方は、体を補いお腹も温めるようなタイプの漢方を使います。良く使われるのは、小建中湯(しょうけんちゅうとう)、桂枝加芍薬湯(けいしかしゃくやくとう)などです。当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)や十全大補湯(じゅうぜんだいほとう)などで通じがつく場合もあります。以上はどれも長服が可能で、女性は妊娠中でも服用できますし服用する事で体力アップなどの効果も期待できます。
 もう少し頑固な場合や高齢者は潤腸湯(じゅんちょうとう)という処方が効果的です。
民間薬ではどくだみが良いですが、このタイプの方では合わない事もあります。クコの葉茶などが良い場合もあります。
3.普通程度の体力がある方は、人により上の1と2のタイプの処方を使い分けますが、次の様な処方が良い場合もあります。
《1》腹痛がある、お腹がはる、しぶり腹、手足の冷え、便秘と下痢を繰り返す等の方……桂枝加芍薬大黄湯(けいしかしゃくやくだいおうとう)
《2》ころころした便、元気な老人、病後の便秘、手足は冷え小水が近い等の方……麻子仁丸(ましにんがん)
《3》痔があり、便秘すると悪化する……乙字湯(おつじとう)

 便秘をしっかり治すには、漢方薬はとても役立ちます。他にも処方は沢山あるので、お悩みの方は漢方専門の施設に相談されると良いでしょう。
   

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