鼻炎・花粉症と漢方


 花粉症や鼻炎は近年急激に罹患者が増え、今日では最も患者数の多いアレルギー性疾患となっています。ある調査では全国民の5〜6人に一人はアレルギー性鼻炎に悩まされた経験があると報告しています。これほどの患者がいる病気であるにもかかわらず、決定的な治療法がまだありません。このアレルギー性鼻炎の治療にも、漢方薬は大変役立ちます。

  
【アレルギー性鼻炎について】
 アレルギー性鼻炎は患者数が非常に増えている疾患で、現代病の一種といえるかも知れません。アレルギー性鼻炎の症状は、アレルギーの元になる物質(アレルゲン:ほこりやダニ、花粉など個人差がある)を吸い込むことで始まります。アレルゲンが花粉の場合は特に別名で花粉症といわれ、多くは春など特定の季節にだけしか症状が出ませんが、アレルギー性鼻炎と別の病気というわけではありません。代表的な症状は大量の鼻水・鼻づまり・くしゃみ・目のかゆみや充血・涙目・鼻やのどのかゆみや炎症ですが、重症例では頭痛や微発熱・強い倦怠感や集中力の低下などもみられ、感冒と同じような状態になり寝込んでしまう場合もあります。いずれにせよ生命に関わるような病気ではありませんが、長期にわたりつらい症状がとれずに仕事や勉強には大変な支障をきたすことになります。又、喘息や気管支炎などを併発してしまう症例も少なからずあり、この場合はさらに治療はやっかいになります。
 
 アレルギー性鼻炎の治療法は、西洋医学では大きく二つに分類できます。一つは症状の軽減を狙った薬物療法(抗ヒスタミン剤や抗炎症剤など)と、体質改善を目的とした療法(減感作療法:げんかんさりょうほうなど)です。

 薬物療法の場合、中心となるのは抗ヒスタミン剤です。抗ヒスタミン剤はかゆみや炎症の原因となるヒスタミンという体内物質の働きを抑制する薬の総称で、種類がいくつかありますがおおむね同じような薬効です。内服剤ではこれに抗炎症剤や交感神経刺激剤などを併用する場合もあります。鼻炎ではこの抗ヒスタミン剤がとても有効で、大抵は服用後すみやかに鼻水や目鼻のかゆみが治まります。しかし効果は長もちしませんので毎日服用しなければなりません。またあくまで対症療法ですから服用を続けることで鼻炎そのものが治療できるわけでもありません。従って一年のうちきまった短い期間しか症状の出ない方には良いですが、それ以外の方では長期服用するようになり望ましくありません。またこれらの薬では重篤な副作用は比較的少ないのですが、強い眠気やだるさ・口の中がカラカラに乾くというような不快な副作用が高頻度に出る為、人によっては使えない事もあります。
 鼻炎の薬物療法では、点鼻薬や目薬などの外用剤も良く使われます。これらの薬は、成分的には内服と同様抗ヒスタミン剤を含む物が中心ですが、一部には副腎皮質ホルモン剤など内服では使いにくい薬を主成分にする物もあり、バラエティに富んでいます。効果が早く内服剤よりも全身的な副作用が出にくいのがメリットです。しかしやはり対症療法である為何度も使用しなければならず、また薬によっては使い過ぎると鼻などの粘膜の抵抗力が弱くなり、効果がきれるとかえって症状が強くなってしまうケースもあり結果として薬が手放せなくなる悪循環に陥ってしまいかねません。従って外用剤も症状が短期間しか出ない方には向いていますが、慢性的に症状が出る方は使い方に注意が必要です。
   
 鼻炎の体質改善を目的にした西洋医学的療法には、減感作療法があります。これはごく簡単にいえば、アレルギーの原因となるアレルゲンを薄めたものを繰り返し注射することで体をアレルゲンに鈍感にして症状を出なくするという療法です。成功すると完治できる場合もあり、有効な治療法といえます。ただし、長期にわたり通院治療で注射を頻繁にうける必要があり、また必ずしも成功するわけではないのが弱点です。またアレルゲンが特定できない症例や多くのアレルゲンを持つ患者さんではこの療法が使えないケースもあります。
 以上のように治療を続けること自体が患者さんにとって大変な事もあり、減感作療法は鼻炎ではあまり一般的な療法とはいえないかもしれません。
   
  
【鼻炎と漢方】
 先にも書いたように鼻炎・花粉症などのアレルギー性疾患には漢方薬はとても効果的です。多くの処方が対症療法的な症状を押さえる働きと体質改善の効果の両方を備えています。効果の早い処方が多く、症例によっては服用後すぐに鼻水が止まるという事も少なくありません。また西洋薬に多い眠気やだるさ・口の乾きなどの副作用が漢方薬はありません。その為仕事や勉強の妨げにならないのも大きな長所です。以下に具体的な処方をいくつかあげてみます。
  
【実証タイプ】 比較的体力があり胃腸も丈夫な人
 麻黄(まおう)という生薬が含まれる処方を頻用しますが、これらの麻黄剤という薬は効きめが早く飲んですぐ効果があらわれる場合も少なくありません。代表薬は麻黄湯(まおうとう)で、頭重・鼻水鼻づまりなどに効果的です。葛根湯加川きゅう辛夷(かっこんとうかせんきゅうしんい)は鼻づまりが強い症例や蓄膿症を併発している時に良く使われ、小青竜湯加石膏(しょうせいりゅうとうかせっこう)はひどい水様の鼻水と口渇などの熱症状がある時に使われます。風邪薬で有名な葛根湯(かっこんとう)も鼻炎に効果が高い処方です。これらの処方はすべて麻黄剤で、即効性が期待できます。
  
【中間証タイプ】 体力的に普通程度の方
 このタイプの方も、胃腸が弱くなければ上の実証タイプで使う処方がそのまま使えます。それに加え小青竜湯(しょうせいりゅうとう)という処方が特に鼻炎には特効薬としてつかわれます。水っぱなが止まらない時や涙目にはとても効果的な処方で実証でも使われます。中間証でも胃腸が強くない場合は柴胡桂枝湯(さいこけいしとう)や五積散(ごしゃくさん)のように胃腸の調子も整える処方で対処すると好結果が得られます。
  
【虚証タイプ】 体力的に比較的虚弱な方や高齢者
 このタイプは冷え性で胃腸虚弱なら六君子湯(りっくんしとう)のような体質改善薬が最適です。中間証でもあげた柴胡桂枝湯(さいこけいしとう)や五積散(ごしゃくさん)も使えます。特に冷えて体力が落ちている場合麻黄附子細辛湯(まおうぶしさいしんとう)もよく使われます。
  
以上、大まかにタイプ別に処方を列挙しましたが、鼻炎に用いる処方はまだ沢山あります。服用してみたい方は、まずは専門家に相談される事をおすすめします。きっと思ったより効果があがりびっくりすると思います。
 尚、民間薬としては甜茶(てんちゃ)やどくだみ熊笹などを煎じて飲むと良いといわれますが、すぐに効果が出るものではないので、症状が出る前から長期に服用を続ける必要があります。
 

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